名古屋地方裁判所 平成9年(わ)295号 判決 1997年5月20日
被告人
法人の名称
株式会社マイカー将軍
本店の所在地
愛知県小牧市多気中町九〇番地
代表者の氏名
代表取締役 青木豊
被告人
氏名
青木豊
年齢
昭和二五年一月二〇日生
本籍
愛知県岩倉市八剱町渕之上五三番地
住居
同県小牧市藤島町中島四七番地の三
職業
会社役員
検察官
錦織聖
弁護人
河井昭夫
主文
被告人株式会社マイカー将軍を罰金一五〇〇万円に、被告人青木豊を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人青木豊に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人株式会社マイカー将軍(以下、「被告人会社」ということがある。)は、愛知県小牧市多気中町九〇番地に本店を置き、中古自動車販売修理業の事業を営む資本金二〇〇〇万円(平成元年一〇月までは三〇〇万円、同年一一月までは一二〇〇万円)の会社であり、被告人青木豊は、被告人会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものである(以下、「被告人青木」ということがある。)が、被告人青木は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外したり、架空の経費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ、以下のとおりの犯行を行った。
第一 被告人青木は、平成四年三月一日から平成五年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が、九九三〇万五四九五円であったにもかかわらず、平成五年四月二八日、愛知県小牧市中央一丁目四二四番地所在の所轄小牧税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三三八四万五六七六円で、これに対する法人税額が一一八四万九四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三六三九万六九〇〇円と右申告税額との差額二四五四万七五〇〇円を免れた。
第二 被告人青木は、平成五年三月一日から平成六年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が、五七八六万六二五四円であったにもかかわらず、平成六年五月二日、前記小牧税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一五八二万二〇七〇円で、これに対する法人税額が五一一万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二〇八八万一〇〇〇円と右申告税額との差額一五七六万六五〇〇円を免れた。
第三 被告人青木は、平成六年三月一日から平成七年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が、五二〇二万七二七六円であったにもかかわらず、平成七年四月二八日、前記小牧税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二二〇七万三九一一円で、これに対する法人税額が七四四万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一八六七万九八〇〇円と右申告税額との差額一一二三万二八〇〇円を免れた。
(証拠)
括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
全部の事実について
1 被告人青木の
(一) 公判供述
(二) 検察官調書二通(乙4、5)
2 久米充子(甲13)、川本眞司(甲14)の各検察官調書
3 査察官調査書八通(甲4ないし8、甲10ないし12)
4 登記簿謄本(乙1)
第一の事実について
5 証明書(甲1)
6 査察官調査書(甲9)
第二の事実について
7 証明書(甲2)
第三の事実について
8 証明書(甲3)
(法令の適用)
一 被告人会社
1 罰条(第一ないし第三の事実について)
それぞれ法人税法一五九条、一六四条一項
2 併合罪の処理
平成七年法律第九一号附則二条一項本文による改正前の刑法(以下、「改正前の刑法」という。)四五条前段、四八条二項
二 被告人青木
1 罰条(第一ないし第三の事実について)
それぞれ法人税法一五九条一項
2 刑種の選択(第一ないし第三の罪について)
それぞれ懲役刑
3 併合罪の処理
改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)
4 刑の執行猶予
改正前の刑法二五条一項
(量刑の理由)
一 本件の脱税額は、三事業年度分につき合計五一五四万円余りと多額であり、しかも、ほ脱率は平均して約七割弱と高率である。
そのほ脱の手口は、愛知県中古自動車販売商工組合が主催するオークションにおける自動車販売代金や自動車修理代金の売上除外、自動車仕入代金の水増し、旅費交通費・広告宣伝費の架空計上等多岐にわたるが、その大部分を占める自動車販売代金の売上除外にあたっては、被告人青木が理事を務める商工組合が主催するオークションにおいて、被告人会社の元従業員が個人経営する中古自動車販売業の名義を利用して自動車を販売し、その売上代金を元従業員名義の口座に振込入金させていた。また、各種水増し等については、被告人青木は、従業員に命じ、それに沿う伝票を作成させていたのである。そして、不正に得た資金の一部を被告人青木名義の預金として留保したり、薄外仕入金、貸付金、被告人青木の土地購入代金として使用していた。
このように、被告人青木は、ワンマン経営者として、元従業員や従業員に命じるなどして、種々の不正な手段を使って、主導的に被告人会社の脱税を行っていたものであって、その犯情は悪く、被告人らの刑事責任は軽くない。
また、被告人青木は、元従業員のところに税務署の調査が入るや、右預金口座を解約し、元従業員に対して、その中古自動車販売業の売上として修正申告をさせるなど、犯行後の情状も甚だ芳しくない。
そして、本件各犯行の動機は、被告人青木が、自らの蓄財を図ろうとしたこと及び被告人会社の所得が増えると、儲かっているという噂が立ち、顧客から販売価格の値引きの要求が出たり、同業者から中古車を安く仕入れることができなくなる等して被告人会社の営業に支障が出ると考えたというものであって、動機は自己中心的であり、酌むべき事情は認められない。
二 他方、被告人会社は、修正申告により本税、延滞税、重加算税を完納していること、被告人青木が本件を機に商工組合の理事を辞任することを誓っていること、本件犯行後、被告人会社に顧問税理士をおいてその指導を受け適切な会計処理に努めるなど、被告人会社の経理システムを改善するため努力はなされていること、被告人会社には前科がなく、被告人青木にはわいせつ文書等所持の罰金前科一犯のほかには前科がないことなどの酌むべき事情もある。
そこで、これらの事情を総合的に考慮して、被告人会社を罰金一五〇〇万円に、被告人青木を懲役一年にそれぞれ処するが、被告人青木に対し、刑の執行を三年間猶予することとした。
(求刑 被告人株式会社マイカー将軍につき罰金一五〇〇万円、被告人青木豊につき懲役一年)
(裁判長裁判官 川原誠 裁判官 久保豊 裁判官 宮武芳)